もう少し詳しく 詐害行為取消権(債権者取消権)2

もう少し詳しく

詐害行為取消権(債権者取消権)2

2010年3月16日 

設例
債務者Xは,唯一財産である甲土地を債権者Yに譲渡し,さらにYはSにその土地を売却した。債務者Xには,他に債権者A,B,Cがいる。そして,Xは乙に対して債権を有している。

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無資力要件(客観的要件)

債務者の資力が減少し,債権者に対して完全に弁済するに至る責任財産が無い状態にあることです。ですから,債務者が通常,返済能力が完全にあるとされる場合にした法律行為は,詐害行為にはなりません。また,Xが乙に対して持つ債権があっても,客観的に乙も破産状態にあり,債権の回収が見込めない場合は,乙に対するいわゆる積極財産は,そこから除外されます。そして,詐害行為は訴訟によらなければならないのですが(詳しくは後述),その時点でも,Xの責任財産,総財産で弁済ができない状態でなければなりません。たとえば,乙の状態が好転して,乙に対する債権が満額で回収できるような状態になった時には,その時点で,その財産から弁済が可能になったような時には詐害行為ではなくなります。その理由としてXの債権者を保護する制度であって,債務者Xに制裁を加える制度ではないからです。

詐害の意思(主観的要件)

詐害の意思とは,その法律行為が他の債権者を害することを知っていた行為,その行為によって総債権者に対しての弁済資力が不足することを知っていたことです。このことを債務者と受益者とである債権者と転得者(受益者から甲土地を買受けたS)が知っていたことが必要で,これを悪意といいます。しかし,この悪意に取消権行使の債権者を害することを意図し,もしくは欲することまでは必要ありません。つまり,債務者の意思に積極的に他の債権者(設例ではA,B,C)を困らせる意図は必要ないというようなことです。また,債権者の執拗な債権の取立てで債務者が支払ってしまった事例を詐害行為とならないとした判例,また,抵当権者が抵当権を実行して優先弁済を受けても,抵当権者として当然の権利を行使したまでのことなので,詐害行為にならないとした判例があります。重要なことは,その債務の弁済によって,他の債権者が不利益を被ることを知っていたこと,それが重要なのです。抵当権でいえば抵当権設定時に既に債務超過状態にあった時は詐害行為になるとした判例があります。

ですが,この悪意とか知っていたとかいうものは,債務者や受益者の内心の問題です。実際の訴訟の場で「私たちは知っていました,悪意がありました」とは言いませんね。前述の点をどのように判断するかは,行為の態様,財産状況,債務者と受益者との関係など客観的な面から判断されます。また,債権を害された債権者側は,行為の態様,財産状況,受益者との関係を証明すればたり,悪意の立証責任は,受益者や転得者側にあります。つまり,受益者や転得者は悪意が無かったことを証明しなければなりません。もし,転得者が善意であったことが証明できた場合は,受益者と債務者の間の法律行為は取消すことができても,受益者と転得者間のこの法律行為は取消すことができません(424条1項後段)。虚偽表示の無効(絶対無効)の場合の効果と異なるところです。

取消の方法

債務者と受益者・転得者の間の法律行為を取消すには,訴訟によらねばなりません(424条本文)。その訴訟の相手を誰にするのかが,学説で大きく分かれていますが,それは「改正されなかった条文/詐害行為取消権」で触れています。

判例実務においては,第一に相手方は受益者です。判決文は,何月何日に締結されたX,Y間の甲土地の売買契約を取消す旨の判決が下りる形成の訴えです。また,また,取消しを求める形態や相手方によっては,給付の訟えとがとが併合されることになります。

そして,債務者を被告として訴えることはできません。訴えを起こしても当事者適格がないとして却下されますが,債務者を受益者や転得者の側の補助参加として訴訟に関与させることはできます。

転得者がいない受益者を被告とした詐害行為取消訴訟の場合,目的物に代わる金銭の返還を請求することはできません。ただし,例外もあります。たとえば善意の転得者の場合,前述のとおり目的物である現物の返還を求めることはできません。その場合,受益者に対してこれに代わる価額賠償を求めることができます(大判大正12年7月10日民集537頁)。

転得者がいる場合には,最後の転得者を被告としますが,受益者を被告としてもよいとされた判例があります。

取消の範囲と効果

取消の目的物が不動産の場合は,移転登記の抹消となります。ただし,取消権を行使する債権者に移転登記せよ,とすることできません。取消権を行使する債権者に名義を移転する根拠がないからです。また,金銭などの場合,債権者が他に居ても,債権者平等の原則に従った割合ではなく,債権全額であるとされます(大判昭和8年2月3日民集175頁)。それは,425条の取消の効果が「すべての債権者の利益のため」としていることによるものです。

取消によって戻された債権は債務者の一般財産となって,平等の割合で請求できるに過ぎません(優先弁済権が無い場合)。しかし,登記を必要とする不動産以外の金銭や動産などは,取消権を行使する債権者,つまり,原告に引き渡すように請求することを判例は認めているため,取消によって原告債権者が受け取ることができます(相対的無効説の問題点として指摘されています)。そして,債権者は債務者に戻す債務と債務者に対する債権を相殺してしまうので,優先弁済を受けたのと同じ効果が生じます。

判例の立場である相対的無効説は,訴訟上の相手方を受益者または転得者,もしくはその両方としています。その場合,判決の既判力の問題として,民訴115条1項が判決の効力が及ぶものを「当事者」としているので,債務者は当事者ではないため既判力が及びません。そのために取消権を行使する債権者の下に債務者の財産が移転することが可能になるのです。ただし,民事訴訟の学説では,形成の訴えの判決に既判力はないという説もあります。

もし,取消権の行使によって全額がその取消権を行使した債権者の債権だけで賄われてしまい,他の債権者に配当がいかない場合も考えられます。その場合,民法の一般原則に基づいた信義誠実の原則(信義則)により他の債権者が訴えを起こすことになるといわれています。ただ,取消権を行使した債権者は,訴訟費用などの費用を含めた額を受ける権利は有しているので,必ずしも按分額が,取消権者が受け取るべき金額ではありません。

その他,否認権など破産法上との問題や,そもそも詐害行為取消権が含む多くの問題点がありますが,その辺りは下記の文献を参照してください。

以上 

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※私がゼミや大学院での発表を元に作成したもので,実際の紛争の解決は,専門家にご相談ください。
 【参考文献】
我妻栄・有泉亨・川井健 著『民法2債権法』(勁草書房,2003年)
平井一雄 編『民法Ⅲ【債権総論】』(青林書院,2002年)
星野英一 著『民法概論Ⅲ(債権法)』(良書普及協会,平成4年)
潮見佳男 著『債権総論』(信山社出版,平成10年)
奥田昌道『債権総論〔増補版〕』(悠々社,2002年)
加藤雅信『新民法体系Ⅲ 債権総論』(有斐閣,平成17年)
中野貞一郎・松浦馨・鈴木正裕 編『新民事訴訟法講義〔第2版〕』(有斐閣,2004年)
『ゆり子のアタック ~原告訴訟への道~』国税庁(ビデオ)